時折、雑誌なんかで「俺の時代の501は新品で赤ミミだった」と言う翁がいらっしゃいます。私も負けずに、「俺が買っていた時代のデニムは…」とビンテージを語れる年代になってきました。
そんな感慨にふけって顧みてみます(個人的な記憶と感想に基づいていますので、誤りはご容赦ください)。
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国産デニムの歴史は、全般的に厳しい道のりだったと思います。
初の国産デニムブランドとされる大石氏のビッグストーン、のちのキャントンはブーム時に再興したものの再び倒れ、今はまた別の企業が運営しています。ユアン・マクレガーを奉ったボブソン然り。国産の雄エドウィンも大手商社の傘下に入りました。伝統的な国産ジーンズメーカーで昔から変わらぬ資本体系を維持しているのは、岡山県倉敷市に本拠を置くビッグ・ジョンぐらいではないでしょうか。
唯一、華やかだった時代が1990年代半ばでした。エビスジーンズが口火を切る形でデニムブームが巻き起こり、それはもう猫も杓子もレプリカジーンズをつくっていました。正体不明のメーカーがボウフラのように発生。ファッション雑誌もこぞってデニムを取り上げました。メンズ・ノンノのようなデザイナーズ寄りの雑誌もヴィンテージやレプリカデニムを紹介していました。
「ジーンズは洗わない」説や、ウーロン茶染めなどの怪しげな自作加工が広まったのもこの頃。私もバイクで引きずってボロボロにしたり、レザーパッチに熱湯をかけたり、土に埋めて「タンニン染めだ」と豪語するなど暴挙を繰り返したものです…。
ブームを牽引したのは、エビスのほかドゥニーム、フルカウントといったところでしょう。ちょっと遅れてウエアハウス、ジョー・マッコイですかね。
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ブーム時に興きたメーカーの中には、日本での流行をバネに2000年ごろに海外進出した会社もありました。しかし、当時、成功したのはエビスぐらいかもしれません。
エビスは中国など現地企業に商標権を売却し、現地で生産していました。一方、ドゥニームやフルカウントは日本から輸出していたため割高でした。このため、欧州でブランドとして確立したのはエビスだけでした。ベッカムが上下ともエビスを着用し、欧州でもブームになりました。
しかし、ブームが去ってみると、なかなか厳しい現状が待っていました。
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好調だったエビスですが、2006年に商標権の売却所得を隠していたことが発覚し、脱税罪が確定。ブランドイメージを大きく損ねました。一時は全国各地に店舗を増やし続けましたが、数年で閉じるケースも多く、放漫経営が見え隠れしています。
そして、ジョー・マッコイをつくっていたザ・リアルマッコイズ。率いた岡本博氏はモノだけでなく、架空の社史までつくるというこだわりようでした。しかし、グループ会社の手形不渡りが直接の引き金となって会社更生法の適用を申請しました。水面下では、ほかにもいろいろあったようです。雑誌に岡本氏とフェローズ志村氏の対談が載っていましたが、裏切られて会社を追い出されたとか何とか…。最終的に、会社はNYLONに経営権を渡しています。
ドゥニームは有名なように、2009年に古着などを扱う「WE GO」に経営を譲渡しました。
フルカウントも大阪の直営店を閉じました。大丈夫でしょうか。。。
また、ブーム以前の1980年代から本格的なジーンズをつくっていたストゥディオ・ダ・ルチザンは、90年代半ばにはすでにデニム加工会社に営業を譲渡しました。
そのほか、ブーム時に生まれた幾多のブランドは、ひっそりと消えていきました。2008年ごろから本格化したリーバイスの「レプリカ狩り」も影響したかも知れません。
中にはいい物作りをしていたメーカーもあったと思うのですが、もともとジーンズは利益を稼ぎにくい商売です。一つのモデルで何種類ものサイズを用意しなければなりません。それに私のような物好きでもなければ、頻繁には買い換えませんからね。
そんなこんなで、ブーム時に立ち上がったメーカーの中で「あのころ」から変わらぬ勢いを維持しているのは塩谷兄弟のウエアハウスぐらいでしょうか。
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しかし、ブームが去った後も、地に足の着いたモノづくりを続けるブランドは数多くあります。
自社ブランドのほかショップのオリジナルジーンズを数多く手がけるF.O.Bや、長野のショップオリジナルから始まったフラットヘッド、かつてマッコイズの岡本氏と机を並べた志村氏率いるフェローズなどなど。
その岡本氏は、新たにトイズ・マッコイというメーカーを興しましたし、旧マッコイでジョー・マッコイを手掛けていた安井氏はフリーホイーラーズ(ブートレガーズ)という知る人ぞ知るブランドを立ち上げました。新たなアメカジの萌芽も感じられます。
穿き込んだ色落ちや着倒すことで生まれるアジで魅せる服というのは、なかなか見当たりません。かつてのようなブームはなくとも、日本のデニムや頑丈な洋服が着実な服飾文化として根付いてほしいですね。
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